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2020-5-15

リアルと物語の「間」を描く。アニメ「イエスタデイをうたって」の“美術”を紐解く

美術監督 宇佐美哲也 × 美術設定 藤井祐太
(スタジオイースター)

Part 02

アニメ「イエスタデイをうたって」の日常を描くために欠かせない、“背景美術”。アニメの背景美術を手がける会社 スタジオイースターの美術監督 宇佐美哲也さん、美術設定 藤井祐太さんによる対談続編です。

―日常を舞台にした“群像劇”ならではの「背景美術」。

宇佐美 「生活感のある雰囲気」を出したいなと思っていました。小物の散らかり方とか、紙くずはここからこう捨てたらこの辺に落ちるだろうとか、服もこの辺りに脱ぎっぱなしにするだろうな、というリアルな生活感を表現できたらいいな、と。冷蔵庫周りにベタベタ紙が貼ってあったりとか…。笑

藤井 キッチン周りはどの部屋も足してくれたよね。

宇佐美 そうですね、洗剤やスポンジなどは監督の指示でもあったんですけど、特に生活感を出すために足していった部分です。榀子の部屋だったらこうかな、リクオだったらぶっきらぼうにこう置くかな、とか。小物の置き方とかもこだわった記憶があります。

藤井 リクオの部屋の中はまず監督にイメージを描いてもらったのですが、写真の飾り方や、カメラの持ち方、物の散らかり方、旧式のゲームとか..細部にこだわりが散りばめられています。

宇佐美 リクオの部屋は、貧乏学生が一人で住んでいるような古めのアパートにして、光はあまり当てないようにしたりもしましたね。これは、榀子の部屋との対比を出したいというのもあって。榀子は小綺麗な部屋に住んでいて、リクオはちょっとボロい感じにした方が立場に差が出るといった具合に。

色味も、「イエスタデイをうたって」だったら少し彩度抜きめにした方がリアルかなとか。単純に暗くするのではなく、影に色を入れてみたり、昼間なら青色を入れてみようとか、夕方だったら紫色を入れてみようとか。実は、現実も割とそうなっていたりするんですよ。そういった、「普段あまり意識しないようなリアリティ」をみせられたらいいなと、思っていました。

宇佐美 この作品で特徴的だなと思ったのが、「キャラの心情で色を変える」っていうのがあって。ちょっと沈んだから背景に青色を入れようとか。もやもやしているから緑色に振ろう、とか。通常そういった処理は撮影さんの方でやるんですけれども、今回の作品は、それすらも美術の方で描いていたりするので、観ている方は分かるかなあ…、って感じですけれども笑 でも感じ取ってもらえれればやった甲斐があったなぁと。笑

例えば..1話で陸生がフラれるシーンや二話の夜の公園のシーンでは途中から緑色を強くしています。4話で榀子と浪がもめるシーンでは徐々に青緑で色がのるようになってます。あとは..榀子が浪くんのことを男として見始めると少し背景がピンク色に変わってたりするんですよ。
そこを撮影処理ではなく、美術で色を作っていきました。それに合わせて、キャラも色を作り直していく。登場人物の気が沈んでる時の空気感のチューニングなども、全部美術で作り直していましたね。

キャラクターの演技に合わせて「美術」をチューニングする

宇佐美 リテイク(修正依頼)も本当に細かくて。キャラの位置を人1人分左にずらしたいとか。そこだとちょっと絵面が悪いとか、横断歩道を歩いている時に車道を歩いているように見えかねない、とか。視聴者からしたらあまり分からないかな、という点も、違和感がより無い選択を監督がされていました。

藤井 3Dレイアウト出しのタイミングでも、コンテに消失点やアイライン(キャラクターの目線)の細かい指示や『キャラの目線を意識してください』注意書きがありました。例えば、第2話の白線を踏み越えるシーンとかは、コンテの段階で指示があって、3Dレイアウト時も気を配りました。あとは、監督、演出とレンズを広角にするかどうか検証したり等の細かい調整は、動画工房さんにお願いしました。

監督や演出がコンテを切った後、レイアウトを切る前に、人物も含めた3Dモデルを作り、立ち位置やキャラクター同士の距離感、目線(アイライン)や空間の消失点のバランスに違和感が出ないようにしている。

第2話リクオと榀子を隔てる白線の演出。

藤井 12話全部終わりましたという連絡が動画工房さんからきた時、3Dなかったら終わってなかったです、と笑
 お世辞かもしれませんけど。笑

設定マンが3Dモデルを作ることのメリットは大きいと思います。普通だったら複数人でやりとりするところ、レイアウト出しの時も、演出上都合が悪いものがあったときに、監督や演出さんとやりとりしながらその場でモデルを直して、それがそのまま美設にも反映される。また、他人が再現可能なのも3Dモデル、3Dレイアウトの利点だと思います。

ちなみに今回3Dで作った一番スケール大きいものは、…実際に存在する、とあるバス停なのですが、かなり長い距離作りました。作りながらびっくりしてました、「これ…いるの..?」って。笑 360度どこにカメラを向けても大丈夫なように作る必要があったんです。

オンエアが始まり、美しい背景美術にも注目が集まっています!改めて見てみていかがでしょうか?

宇佐美 大変嬉しく思います。ほんとに密度の濃い作品だなと、客観的に仕上がった映像を見ても感じます。修正の内容も細かかったので、こんなにこだわるんだ、というのがこの作品に対する率直な感想です。「イエスタデイをうたって」は実はワンクール前に完成していて、これは滅多にないことなんですよ。通常だと全話数の完成は本当ギリギリ。二週間前ぐらい納品やビデオ編集の前日ぐらいに完成するものもあります。そういう意味でも、高密度で良いクオリティのものに仕上がっていると思います。
キャラクターの芝居の良さに引っ張っていただいていると思っておりますので、背景を見るというよりは作品全体の一要素として、最後まで楽しんでいただければ嬉しいです。

藤井 アイキャッチもなかなかこだわっているのでみてほしいですね。原画さんが作られたものなのですが、アイキャッチに映ったものが本編のどこなのか、というのを探してもらえると面白いかもしれないです。

ありがとうございました。リアルと物語の間を意識して描かれたこだわりある背景美術、リアリティある日常風景にもぜひ注目したいと思います。

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