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2020-5-8

リアルと物語の「間」を描く。アニメ「イエスタデイをうたって」の“美術”を紐解く

美術監督 宇佐美哲也 × 美術設定 藤井祐太
(スタジオイースター)

Part 01

アニメ「イエスタデイをうたって」の日常を描くために欠かせない、“背景美術”。アニメの背景美術を手がける会社 スタジオイースターの美術監督 宇佐美哲也さん、美術設定 藤井祐太さんが、制作を振り返りそのこだわりを語ってくださいました。

お二人それぞれの役割を教えてください。

藤井 私の仕事は、美術設定・3Dモデル・3Dレイアウト出しこの3つです。美術設定は、いわば美術版のキャラクターデザインで、プロップ(小物)以外のもの、例えば今回は、部屋と外観、街など、だいたいのものの設定を手掛けています。
シナリオが上がり、監督がコンテを描くための材料として美術設定を作ります。こういう演技をさせたいので、ここにはこれが必要です…、という発注があって、そこから組んでいきます。街の設定は監督が初めに決めていて、頂いた写真参考などをベースにしながら、シナリオや演技に合わせてディテールを作っていきました。

宇佐美 僕は美術監督として、絵コンテが上がって、美設も上がった状態で、じゃあこういう感じで色をくださいとか、ここを見せたいからこの方向からの光でリアルに描いて欲しいなど、監督から受けた注文を表現していきました。
美術監督は、“雰囲気”を作るのが仕事かなと思っています。美術設定が作ってくれた世界に色をつけて、これだったら古めの木材がいいよねとか、全体の雰囲気、部屋の雰囲気だったり街の雰囲気だったりを決めていくのが美監で、そこまでの細かい設定を決めていくのが美設かなと。

藤井 私は白黒の世界、美監はカラーの世界という感じですね。

約20年前の東京。― 時代設定、舞台設定へのこだわり

藤井 舞台は2001年、世田谷線沿線ですね。原作がお好きな監督からの「世田谷の沿線沿い」というピンポイントな指示がありました。(*2話から2002年〜という設定。)
最初は監督がまだ構成に悩まれていて、何度か一緒にロケハンをしていく中で、実際にその場所を利用している人達への取材などを通して、原作の世界観をどうアニメーションとして表現するのかを試行錯誤している姿が印象的でした。
テレビや信号機を古い型にしたり、LEDを旧式のものにして欲しいという話もしましたね。

宇佐美 そうですね、自動販売機のtaspoを消して欲しいだとか。タバコの銘柄もなるべく昔のものにもとづいてとか。時代が少し前の設定なので、とにかく参考資料を探すのが大変でした。
僕も学生の時から原作を読んでいたので、普通に1ファン同士として、監督が表現したいことわかるなあといった感じでした。基本的にセルだったんですが、旧式ゲームの3Dモデルとか作ってたよね。笑

藤井 もともとセルと聞いていたのでそんな作り込んではいないんですけどね笑

宇佐美 本当にこの作品は、「こだわるなあ」と。笑 こんなにこだわってこれ本当にテレビシリーズ..?って。

藤井 劇場版ぐらいのこだわりですよね。笑

リクオが働く写真スタジオをロケハン中の藤原監督。
写真の風合いの違いをアニメでどう表現するか、スタジオのスタッフに取材している姿も見られた。

(榀子のマンションの)アナログテレビの設定画

リアルと現実の間に存在する「街」

藤井 街の設定は監督が初めに決めていたので、発注の段階でここら辺をメインにして作ってくださいとか、外観に関しては写真参考をメインにここら辺を広げてくださいとか、頂いた指示をベースに作りました。部屋の中はいったん監督にイメージを描いてもらって、それを現実的にありえる柱の寸法などにチューニングして作り込んで行きました。

リクオの部屋のスケッチとそれを元に作られた部屋の3Dモデル

アニメはやろうと思えば極端なことができてしまうんですけど、そうならないように、監督の意向を汲んで、「現実的に見えるものかどうか」というのを調整しながら美術設定と3Dモデルを同時に作っていきました。
登場人物が近隣に住んでいることもあり、街の3Dモデルは使いまわしています。登場人物の生活範囲や行動から逆算して、実際舞台となったロケ地に、足したり引いたり、調整も加えていたりします。例えば、コンビニとかは、少し裏口で演技をさせたいから裏口を作ってくれ、だとかオーダーがあって。こんな形でどうですか、と。手を加えたりしています。

リクオのコンビニと、その周辺の街の3Dモデル。

リアルと物語の「間」― そのバランスを追求した『イエスタデイをうたって』の美術

宇佐美 最初、監督からは「なるべく写真のようにリアルに表現して欲しい」と言われていました。しかしそれをやりすぎると『イエスタデイをうたって』という作品が持つ「手描き感」が損なわれてしまうという課題も同時にありました。そのバランスをどう表現するか?

実は、リアルにするのと手描き感を出すのって、結構相入れない部分があるので、それをどう落とし込むか、監督とボードを見ながら、「もうちょっとブラシのタッチ欲しいよね」「これ以上やるとリアリティがなくなるな..」などと話し合ってタッチを足したり無くしたり..、ちょっとづつ着地点を決めて行ったって感じですね。

まず、どういう「ブラシ」にするか考えました。手描きっぽい質感が出るブラシがいいのか、水彩っぽいのがいいのか悩んで、最終的にはちょっと鉛筆っぽくしたいなというのがあって。

それで出してみたら、「あ、いい感じだね」ってなったんでこの方向性で進めようかなと。冬目景先生の画集は一番参考にしていましたね。特に回想シーンは監督の強いこだわりがあり、手描き感を強く意識しています。

宇佐美 最近の作品だと、リアルな表現をする為に、リアルな質感のテクスチャーを貼って見せることが多いんですけど、今回はなるべくテクスチャーはやめて、質感も全部手で描くように指示をしました。木目とかテクスチャー表現だと木になってしまうんですけれども、それをなるべくブラシで表現したいな、とか。あとは畳の目とかテクスチャー表現だと細かくなりすぎてしまうのでそこをブラシかけたり。この作品は、ディテールを消し込む作業が多かったですね。

今の時代効率性がすごい求められるんで、これやっちゃうと仕事としてはどうなんだろうと思いながら…笑
スタッフもこういう手描き作業が初めての人も多く、他の作品と比べて難しい、異質だって。笑

難しいのが、タッチって、“汚れ”になっちゃいけないんですよ。スタッフの多くはデジタル世代で育ってきているので、特に絵の具での表現を通ってこなかった人にとっては、何がタッチで何が汚れなのか正解がわからない場面も多かった。全員で試行錯誤を重ねて、アニメ「イエスタデイをうたって」にふさわしいタッチを作り上げていきました。
通常少ない作品だと4〜5人で美術を作ることが多いんですが、今回は…15人ほどいますね。通常の2〜3倍います。笑
会社としても力を入れてくれた作品なのかなあと思います。

第1話でリクオとハルが話す公園。よく見ると、地面や階段のコンクリートに手描きのニュアンスが足されている。

リアルと物語の間に存在する「美術」のこだわりについてお伺いしました。次回は、群像劇としての美術作りについてお聞きします。お楽しみに!

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